第2回東北訪問

【概要】 2011年9月18日(日)~9月24日(土)

 
(仙台市 あすと長町仮設住宅) (福島県郡山市 被災地障がい者支援センタ―ふくしま)

 この訪問より被災者の方々への鍼灸治療を始めた。鍼灸に抵抗のある方も、ローラー鍼での施術が鍼灸治療への糸口になった。お身体のことを伺ううちに心の不安もお話されるようになり、鍼灸師と現地の臨床心理士との連携もできた。被災地には多方面のケアが必要である。異業種との連携が広がればと希望を持った。避難所から仮設へと生活の場はおおむね移行している。被災地域が広大で被災理由も違うため、被災者同士のコミュニティーができにくい状況があった。お一人お一人がそれぞれの場所で本当に頑張っておられた。
 山元町で見た町全体が津波によって消えていた光景は、忘れられない。

(竹原)

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活動メンバーによる報告

第二次訪問の概要と活動記録

<目的>

被災から歳月の経過と共に「はさみ状格差」が生じるとされる。これは元気で再就職できた方などは「元気に」なっていくが、仕事につけない人、障がい者やお年寄りなどもともと困難を抱える人びとはその困難度が深まり、あたかもはさみが広がるように生活再建の曲線に差が生じることを指す。
医療職である鍼灸師は、本来、病に苦しむ人と共にある。そこで、今回の第2弾ボランティア活動は、仮設住宅を中心に、苦しみの声を挙げきれない被災者と出会い、少しでも心身の苦痛を取り除き、関連機関と連携し、継続的な支援が出来るよう計画された。
私たちの活動の特徴として、以下の点が挙げられる。

1)鍼灸の業界団体とは別ルートで、現地の組織・人々と連携し、主に障がい者・高齢者の施設・団体・仮設住宅を回る。

2)可能な限り継続性をもって、顔と顔、名前と名前のなじむ関係作りを企図する。

3)一過性の治療のみでなく、ローラー鍼やせんねん灸など簡易灸を配布し、ツボの処方を行ない、被災された方々が自己ケアできるよう提案する。

4)鍼灸治療が第一義であるが、治療を通じて聞き取った被災者の声を受け止め、福祉機関などと連携し、一種のソーシャルワーク的な活動も視野に入れる。

<行動の概要>

第二次訪問の実施期間
2011年9月18日(日)~9月24日(土)

参加者 4人すべて鍼灸師(清水先生のみ三療資格保有)
竹原彩子  「彩はり灸院」院長   (兵庫県神戸市)
森川真二  「SORA鍼灸院」院長 (兵庫県芦屋市)
清水真奈美 「サンリ治療院」勤務  (岐阜県揖斐郡池田町)
舟橋寛延  「サンリ治療院」院長  (岐阜県岐阜市)

メンバーはすべて鍼灸の「反応点治療研究会」というグループに属す。
清水先生をのぞいた3人は神戸東洋医療学院の鍼灸学科を卒業した先輩後輩関係にある。
リーダーの舟橋は、20代のころ障がい者団体で働いており、1995年の阪神淡路大震災の際、東京から神戸に派遣され、障がい者の生活再建のNPO活動に従事。今回、当時の同僚のルートをたどって被災地入りを行なった。

<活動記録>

9/18(日)
名古屋に集合し、終日車で移動、夜7時、仙台着

9/19(月)
午前 仙台市「被災地障がい者センターみやぎ」の事務所にて打ち合わせ
午後 東北大学の臨床心理士の皆さんと長町仮設住宅について打ち合わせ

9/20(火)
終日 仙台市内・長町仮設住宅にて治療 夜、登米市に移動

9/21(水)
午前 南三陸町・名足仮設にて治療
午後 南三陸町・入谷福祉仮設にて治療 夜、仙台市に移動

9/22(木)
終日 仙台市内・長町仮設住宅にて治療

9/23(金)
午前 宮城県最南部の山元町の福祉施設にて治療
午後 山元町~福島県境の被災地の案内を受ける 夕方、福島県郡山に移動

9/24(土)
午前 郡山市の障がい者団体にて治療  午後、帰路につく

第二次訪問の概要と活動記録

訪問先の様子

仙台市内 あすと長町仮設住宅
ここは230戸という大きな仮設で他県からも避難されています。被害の多様性から つらさを我慢され、お互いを励ましあうこともしづらい様子でした。
今回は東北大学の若島先生の臨床心理グループの協力で治療に入ることができたのですが、鍼灸治療が突破口になりカウンセリングへの道筋がつけやすいという手ごたえを感じました。また2日間治療できたので1日目ローラーの施術をみて、または受けた感想を聞いて来られる方も増えました。種まきの重要性、ローラー鍼の効果を実感した経験でした。

南三陸町 名足仮設住宅・入谷福祉仮設住宅
まず伺った名足仮設住宅はご近所同士で入居されている施設で、もともとあったコミュニティーが保たれています。鍼灸は初めての方ばかりでしたが、和やかな雰囲気に助けられてハリやお灸に挑戦される方も出てこられた方全員に施術をすることができました。
次にお邪魔した入谷福祉型仮設はお年寄りのケア施設ですが、職員の方もみな被災者でした。職員の方に鍼灸経験者がおられたので、その宣伝もあってスムーズに施術することができました。皆さん肩こり、不眠、めまいなど慢性の症状をお持ちです。ニーズはありますが奥地の仮設のため支援は入りにくくなっています。支援の入りにくい小さな仮設にも継続したケアが必要だと感じました。

宮城県山元町 ささえ愛・山元
3日前にやっと再開されたデイケア施設のスタッフの方に施術しました。とてもパワフルな施設長がおられ笑顔のあふれる明るい雰囲気に和まされましたが、皆さんご家族や友人を亡くされ、ご自身も九死に一生を得た経験をされた方々です。見た目のパワフルさや明るさとは違い、体の疲労はとても強く、体の緊急反応でここまで頑張ってこられたのだと想像できました。

福島県郡山市 被災地障がい者センターふくしま
障害者当事者も含めスタッフの方5人への施術をしました。津波や地震被害と違い福島は街も職場も家もそのまま残っています。日常が過ごせる状況で逃げる決断ができるのか考えさせられました。見えない放射能に脅かされながらの生活。放射能対策などの質問もあるかと想像していましたが、こちらから聞かない限り放射能についての話は出ませんでした。鍼灸に対策ができるとは思っておられない様子でした。事務所では腹部への施術はできませんでしたし、とにかくストレス対策の頭部感覚器やコリ解消に集中しました。

ボランティアを終えて
東北は鍼灸の習慣はあまりなく、ローラー鍼でのケアができることが大きな突破口になりました。ローラーでの簡単な治療でもしっかり効果があります。短期の治療ではとにかくコリやストレス対策の頭部感覚器に注目すると効果を得られやすい、効果を感じれば慢性病へのアプローチに移行しやすい。種まきや下地作りの重要性も感じました。十分に治療できなくても、とにかくその方の不調やつらさに気づき、少しでも理解しようとする人間がいることを伝えることも治療になると思います。被災地にはあらゆるケアが必要です。鍼灸という良いアイテムをこれからも被災地に届けられればと願います。
今回の活動に参加できて鍼灸師としても人としても本当に多くの経験をさせてもらいました。支えてくださった皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

彩はり灸院 竹原彩子

被災地で特徴的な疾患

被災者の健康を脅かす要因に、精神的な不安やストレス、衛生環境や栄養状態の悪化があります。これらは、身体の「免疫力の低下」を招き、どんな病気にでも罹りやすい状況を作ってしまいます。その中でも、実際に被災者の方の治療を通して、特に身体に現れ出ていた不調とそのケアについてまとめます。

【めまい・地震酔い】
多くの方に見られたのが、平衡感覚の不調です。未だ多くの余震があります。その余震の度に平衡感覚は、かき乱され、めまいを起こし、精神的にもまいります。また、被災地では、いたるところの建物や地面も未だ傾いたままです。何が真っ直ぐなのか、水平なのかわからず、視覚・深部知覚の情報も乱され、平衡感覚が補正されにくい状況も原因にあると考えられます。
治療としては、まずは心身を休められる状態に持っていくことです。全身状態が悪くても、めまいは起こりやすくなります。それに加え、平衡感覚に関わる内耳(三半規管・前庭)の環境を整えることが重要です。

【睡眠障害】
睡眠薬を服用されている方も、少なくありませんでした。不安や心配があるときに眠れないのは、誰もが経験したことがあると思います。被災者の方にとっては、「将来に対する不安」がいつまでも拭いきれません。さらに、仮設住宅での睡眠環境の悪さもあります。床が固い、雨音や隣人の物音が響いてうるさい、夏は暑く冬は寒いなど多くの訴えがありました。とてもリラックスできる睡眠環境とは言えません。また、身体的な原因として、先程の平衡感覚の不調も睡眠障害の一因に考えられます。
その対策としては、睡眠環境を整えます。治療としては、入力されてくる交感神経の活動を抑え(主に感覚器)、モルヒネ様物質の分泌を促す、いわゆるリラックスした状態に導きます。これは、鍼灸治療の得意とするところだと思います。

【呼吸器疾患】
震災直後に比べると良くなっていたように感じましたが、空気が悪いです。被災地には、がれきが積み上げられていて粉塵が舞い、津波の残した泥による砂埃もあります。仮設住宅では、布団や洗濯物が満足に干せないこともお聞きしました。室内では、カビや菌の温床とならないよう、換気するなどの対策は必要です。集団生活は、感染に要注意です。風邪の入口である呼吸器へのアプローチは、欠かせない治療ポイントであると思います。
また、この部分の炎症は、脊髄反射により、首から背中にかけての筋肉を緊張させます。首肩がパンパンの方を非常に多く見かけました。頭痛、肩こりなどの緩和もたいへん喜ばれます。

【心疾患】
阪神大震災時にも注目されました。地震の様な自然災害後や、戦争の様な人為的災害後に増加することは知られています。災害ストレスに対して、交感神経や視床下部、下垂体、副腎系などを介して、心疾患のリスク因子の憎悪を招くと考えられます。
対策は、睡眠障害と同じく、ストレスの除去で、いかにリラックスしてもらえるかでしょう。さらに、直接負担のかかる心臓へのアプローチです。

これらは、いわゆる慢性期疾患です。慢性期疾患は、日頃の生活の仕方が大きく関わってきます。震災前は、病気の自己管理、いわゆる生活の中でのセルフケアを行なっていました。それが、生活環境が一変することで、普通の生活ができなくなっています。それが、その人のセルフケア能力を低下させ、健康を悪化させることになります。これからいかに、手軽にできるローラー鍼やせんねん灸を用いたセルフケアがなされていくかがポイントだと思われます。

SORA鍼灸院 森川真二

被災地で印象に残った患者さん

今回、仙台市にある長町仮設と、南三陸町での鍼灸ボランティア活動に参加し、多くの方の施術を行うことができました。その中で、特に印象的だった方がいます。

その方は、鍼灸を受けたことがないため最初は治療を遠慮されていましたが、お仲間の勧めでしぶしぶベッドに上がりました。主訴は「右腕がうまく伸ばせない」。右上腕~前腕まで屈筋群の緊張が強く、腕を曲げているのが楽なため、日常的に曲げる姿勢ばかりをとっていたら伸ばせなくなったとのこと。反応は、上肢はもちろんのこと、大胸筋や僧帽筋などにも広く出ており、ローラー鍼を駆使しての施術となりました。
筋肉だけでなく、咽や気管支にも強い反応。また顔全体が浮腫み、眼瞼が赤く腫れていることが気になり、アレルギーか何かかと尋ねたところ、思いがけない答えが返ってきました。
「涙が止まらない。津波が来た直後は泣けなかったのに、最近になってふとした拍子に悲しみがこみ上げて止まらなくなる」と。
何度も泣いて。常に瞼をこすってしまうため腫れており、お顔も浮腫んでしまう。よく見れば、涙の乾いた跡がお顔に残っていました。
目、内耳、咽のリンパの反応点を、時間いっぱいかけて刺激しました。
治療後、ひとまず反応は解消。少しすっきりしたお顔になったことが、せめてもの救いでした。

震災から半年。
仮設とはいえ生活が落ち着きだした被災地の方々のなかには、地震酔いや めまいの症状に加え、精神不安定を訴える方が多くいます。(今回も愁訴として訴える方が多くいました。)そういう方たちの耳周りには、反応が顕著に表れています。様々な精神的な負担に加え、いまだ起こり続けている地震や地盤の歪みなどが内耳への悪影響に拍車をかけ、さらに心のバランスを乱しているのかもしれません。
喪われた方々への悲しみや今後の生活への不安などは、私たちにはどうすることもできません。けれど、それらを乗り越えるための体作りのお手伝いは、私たち鍼灸師にこそできることであり、反応点治療が得意とするところでもあると思います。

長丁場になるといわれている今回の被災地の復興。
微力ながら、今回お配りしたローラー鍼でのケアが被災者のみなさんの心と体の健康を支えてくれるよう、願ってやみません。

清水真奈美

震災後一年にむけて ふりかえりと今後

<今回の活動の成果と反省 → 今後の課題 >

・治療を通して身体の不調だけでなく、面と向かっては話しにくいことも聴き出せた。
→ こちらから一方的に治療を提供するだけでなく、被災者の思いを聞く。

・被災者の生活の回復は、多くの現地職員やボランティアの方によって支えられている。
→ その被災者を支える現地職員、スタッフの方へのケアも重要である。

・被災者の訴えるつらさは腰痛、肩こりに限らない。
→ めまい・地震酔い、睡眠障害、内臓疾患などに注意が必要である。
(とりわけ仮設住宅での不慣れな生活が長期化することから、慢性疾患に注意)

・病気の自己管理を行なうためには、自己ケアが充分になされる必要がある。
→ ローラー鍼や簡易灸を配ってよしとするのではなく、その後のフォローアップが 大切。鍼灸師だけでは限界があるので、現地NPOとも協力する。

・慢性期疾患の発症や悪化を防ぐには一過性の治療では難しい
→ 日常生活のすごし方が重要。今後も継続した支援を行なう。

<計画>

(第3次訪問)
2012年3月に第3回目の訪問を計画中である。
○ 前回訪れた被災者や現地スタッフのその後の様子をうかがう(継続支援)。
○ 大震災から1年経過した現地での生活ぶり、健康状態を確認し、鍼灸支援の方法の
練り直しも行なう。
○ 訪問先が、宮城県の北東部(三陸町)から、福島県の郡山市まで広域であるため、チーム編成を行ない、地域ごとに鍼灸師グループで担当者を決めるのも一案。たとえ頻繁に訪問できなくとも、顔なじみのAさんが季節ごとに鍼灸治療に来てくれる、と受け止めていただけると嬉しい。細くとも長く支援が続くことが、被災者の方々を「いつまでも忘れずに見守っている」というメッセージを送ることにもなるだろう。

(中長期的な支援方法の模索)
仮設住宅の入居は2年が期限とされているが、被災地によっては、代替の土地が不足し、2年以内での仮設住宅の解消には至らないことが予想される。都市部に限らず、へき地の支援をも志向したい。
その場合、鍼灸ボランティア支援も長期化するだろう。しっかりと活動を継続するためには、私たちのグループも足腰を強くしなければならない。仲間を募り、資金や物品などの体制も整えていく必要もある。第3次訪問を契機に、中長期的な支援体制の構築に向けた努力を行なっていく。

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